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大きな組織の下部組織

曽ヶ端準と野沢拓也。かつて、鹿島アントラーズのアカデミー出身で成功を収めた選手といえば、この2人の名前しか挙がらなかった。しかし、2011年、土居聖真がトップ昇格を果たして8番を背負うまで成長すると、2015年にはトップ昇格1年目の鈴木優磨がリーグカップのファイナルにも出場するなど存在感を示し、同年の高円宮杯プレミアリーグを制した鹿島アントラーズユースからは町田浩樹、平戸太貴、田中稔也、垣田裕暉の4名がトップチームへの昇格を果たしている。そして2018年、前年の沖悠哉に続き、ユースチームから佐々木翔悟と有馬幸太郎のトップ昇格内定が発表された。

佐々木と有馬の昇格が発表された11月1日現在、熊谷監督が指揮を執る鹿島ユースは高円宮杯プレミアリーグ(高校年代における最高峰のリーグ戦。Jクラブのユースや高体連20チームが東西に分かれてシーズンを戦い、それぞれの覇者によるプレミアリーグファイナルで王者を決定)で3試合を残して首位をキープ。2位の青森山田との勝ち点差は4ポイントを保っている。

青森山田とのデッドヒートを制することができれば前述した2015年以来となるプレミアリーグファイナルに進出となる鹿島ユースだが、15試合を消化しての戦績は12勝1分2敗。見れば分かる通り大きく勝ち越しているが、その得失点差は+14、青森山田の得失点差を確認すると+31とかなり差が付いている。それもそのはず、大量得点での勝利が多い青森山田に対し、鹿島ユースは多くの試合を1-0で制しているのだ。

得失点は少ないけど、順位表では1位。まさに“鹿島アントラーズ”のユースという成績だが、さらに鹿島らしいポイントとして、苦しい時間でのセットプレーからの得点が異常に多い点である。そのセットプレーのキッカーを主に担当しているのが小沼樹輝、そしてトップ昇格が内定している佐々木翔悟だ。「左足担当」の佐々木だが、その左足から蹴り出されるキックは非常に魅力的。実際に観てもらうのが手っ取り早いだろう。佐々木翔悟の魅力が凝縮された試合が2018年のプレミアリーグ、アウェイでの柏レイソル戦だ。強烈なミドルシュートでゴール、そしてセットプレーのキッカーとして2得点を演出している。

「鹿島の左サイドバックといえば?」
そう聞かれた多くの鹿島サポーターが相馬直樹か新井場徹、もしくは山本脩斗と答えるだろう。今年から鹿島が好きになった方は安西幸輝と答えるかもしれない。その全員が「右利きの左サイドバック」だ。川島大地、宮崎智彦、前野貴徳、鈴木優雅、石神直哉ら、大きな期待を背負っていた「左利きの左サイドバック」はレギュラーポジションを獲得することが出来ず、クラブを去った。石川竜也も鹿島では4年半でリーグ戦45試合の出場に留まり、現在も鹿島に所属している三竿雄斗も苦しい時間を過ごしている。

トップ昇格を果たした佐々木翔悟だが、左サイドバックを主戦場として鹿島ユースからトップ昇格を果たしたのは、美白のロべカルこと根本裕一以来だ。美白のロべカルもまた、その異名の通り「左利きの左サイドバック」であり、J1リーグに所属する大分トリニータや世代別日本代表で活躍したが、鹿島では相馬直樹の後継者になることは叶わなかった。しかし、アウグストやパクチュホといった外国籍選手の「左利き左サイドバック」は鹿島で結果を残しており、「左利き左サイドバック」が鹿島に合わない、という訳でもない、はずだ。と願いたい。

そこで佐々木翔悟にも、全然タイプは違っても「左利き左サイドバック」で有名な海外選手といえば誰だ、というどこかのメディアの安易な発想から「鹿島のロべカル」とか呼ばれ、ガチのロべカルを追ってブラジルに帰国したファビオ・サントスがブラジルでみせているようなパフォーマンスを披露して欲しいところだ。


さて、佐々木くんについて書いたのだから、次は同じくトップ昇格を果たした有馬くんについて語りたいのですが、どれだけ愛情があっても数試合しかプレーを観たことがない選手に対して偉そうに期待を綴ることは案外難しいことが分かりました。佐々木くんについての文章も鹿島の左サイドバックについて語っているうちに、鹿島で左利きの左サイドバックは大成できないという内容となり、慌ててアウグストやパクチュホの力を頼って軌道修正を図りましたが、結果的にロベルト・カルロスが出てくる大惨事になりドタバタで幕を幕を閉じました。いまのところ、次の有馬幸太郎についての期待はもっと支離滅裂な文章になっているはずですので、ここで読み終わるのが賢明かもしれません。

絶対に伝えたいことは、佐々木翔悟と有馬幸太郎には本当に期待している、ということです。


閑話休題。有馬幸太郎は15試合を消化したプレミアリーグで9番を背負い13試合にスタメン出場、1試合に途中出場している。得点は2得点に留まっているが、そのうちの1点は青森山田戦で挙げた貴重な先制点。さらに、5月下旬に行われたトップチームによるいわきFCの練習試合では後半から出場を果たし、“TD就任前”のジーコが見守る中で決勝点を記録している。

また、有馬幸太郎の昇格により、2019年の鹿島アントラーズに“三太郎”が集結する可能性がある。鹿島は有馬の昇格に加え、順天堂大学から名古新太郎が加入内定。2年続けて徳島ヴォルティスにレンタル移籍で加入している杉本太郎が復帰となれば、三太郎が揃い、ポジション的にトライアングルを結成することも可能だ。「鹿島アントラーズ」が誕生した1992年からクラブ史上初の「太郎」である杉本太郎が加入するまで時間がかかったが、2018年になり立て続けに名古新太郎と有馬幸太郎の加入が内定。2015年には柴崎岳、金崎夢生、赤崎秀平、高崎寛之と多くの「崎」が所属していた鹿島アントラーズだが、ここにきて「太郎」が台頭してきた。


ここまで書いてみて、お蔵入りを決意しました。もはやサッカーの話ではなく、完全に名前の話をしている。まあ、名前の件は結構気に入っているのですが、プレー面について何も知らなすぎる。前述通りプレミアリーグ15試合のうち、1試合を除いて全試合に出場している有馬くんですが、今季プレミアリーグで観戦に行けた唯一の試合がその有馬くん欠場試合。そんな訳でもうお蔵入りだ、と思っていたのですが、11月25日に開催された青森山田高校との上位決戦をスカパー!で観ることが出来て、有馬くんがとても好きなタイプの選手であることが分かりました。そんな訳で一度は諦めたこの記事を約1ヶ月ぶりに書き進めます。


閑話休題。ディミタール・ベルバトフ。その名前を知っている方は、何故、急にドイツやイングランドで活躍したストライカーの名が、と疑問に思い、知らない方は何故、急にブルガリアに多い男性の名前が、と疑問に思うだろう。まず、ベルバトフの経歴を軽く紹介したい。ブルガリア出身のストライカーはブンデスリーガのバイヤー・レバークーゼンで飛躍を果たすと、プレミアリーグのトッテナムに移籍し、自身の価値を更に高める。すると、2008年にはマンチェスターユナイテッドに引き抜かれ、クリスティアーノ・ロナウドやウェイン・ルーニーらと共に強力な攻撃ユニットを結成。晩年はフランスやギリシャ、インドでプレーし、2018年にはブルガリアで俳優デビューを果たした。

そのベルバトフの魅力だが、Wikipediaでは「※要出典」でこそあるが、「ゴールとアシスト、両方の仕事をハイレベルでこなすことができるアタッカー。長身ながら足元の技術が優れており、ポストプレーはもちろんのこと、柔らかいボールタッチ、巧みな腕の扱い、強靭な体幹による、相手をいなすボールキープは、彼の真骨頂であり、武器である」と記述されている。青森山田戦、柔らかいトラップで難しいボールも収める有馬幸太郎のプレーを観ている時、私はベルバトフのことを思い出していた。

スカパー!オンデマンドに加入している方は今からでも観て頂きたいのだが、50分過ぎに鹿島ユースがセットプレーから二次攻撃を仕掛けるシーン。柔らかいタッチで浮き球を収めた有馬幸太郎は相手を置き去りに、ベルバトフ同様の有名なプレー同様にボールも置き去りにしてしまうが、右サイドに流れて再びボールを持つと、巧みに腕を使いながらマークを剥がし、短いパスでチャンスメイク。赤いユニフォームで9番を背負い、飄々とプレーする姿がベルバトフに重なって見えた。鹿島ユース出身でトラップが柔らかいと聞くと、あの変態を想像する方も多いと思うが、私は有馬幸太郎は野沢拓也とは違うタイプの変態だと思っている。

もし本人やご家族がマンチェスター・シティやアーセナルファンだった場合、大変申し訳ございません、と謝るほかない。ライバルクラブの選手に似ているとしたうえ、変態とも言ってしまった。しかし、私にとってはその全てが誉め言葉であり、1年目からユニフォームを購入したいほど、その活躍を楽しみにしている。もしかしたら青森山田戦のパフォーマンスが珍しかっただけで、シーズンが始まってみれば全然ベルバトフじゃない可能性はあるが、あのトラップは簡単に何度も出来るものではない。変態であることは間違いなさそうだ。

さて、有馬幸太郎がベルバトフにみえた青森山田戦では優勝を決めることが出来なかった鹿島ユースだが、試合終盤に同点弾を許したあとも焦ることなく、しっかりと敵地で勝ち点1を獲得、そして優勝を争う青森山田高校の勝ち点2を削り、プレミアリーグEASTの制覇に王手をかけた。残り2試合はいずれもカシマスタジアムで、富山第一、そして鹿島アントラーズへの加入が内定している関川郁万擁する流経柏と対戦する。

ユースチームには当然、トップに昇格できない選手のほうが多い。私も現在のシーズンが終われば、大学に進学する鹿島ユース出身の選手よりも、関川郁万のことを熱心に応援することになるだろう。それでも、鹿島のエンブレムを胸に戦っている鹿島ユースの選手たちは、紛れもなく鹿島アントラーズの選手であり、その鹿島アントラーズの戦いの結果がクラブの未来を変える。残り2試合、そしてチャンピオンシップ、鹿島アントラーズの戦いを精一杯、応援したい。

閑話休題。鹿島ユースには2年生に小針宏太郎くん、1年生に谷口翔太郎くんが在籍している。2021年には五太郎のクインテットが結成されているかもしれない。