Momosaka

[vs横浜FCレビュー]スプリント

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アジアチャンピオンズリーグの舞台で遂に準決勝まで進出。その準決勝が開催される5日前に行われたアウェイでのヴィッセル神戸戦でも5得点を奪って大勝した。クラブの悲願であるアジア制覇が迫ってきている。しかし、10月3日、準決勝の1stレグでホームに水原三星を迎えた鹿島アントラーズは開始直後に先制点を許すと、6分にも失点。開始早々に2点のビハインドを負いカシマサッカースタジアムは静まり返る。

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2018年、鹿島アントラーズはアジアを制したが、翌年はシーズン通して苦しい戦いが続き、大岩剛の退任が決定。天皇杯でもファイナルまでは勝ち進んだが、新たな国立競技場での試合は最悪の思い出となった。そして、クラブはブラジルで評価を高めていたザーゴを招聘。エヴェラウドやファンアラーノといったブラジル人選手も獲得し、改革を図った。しかし、就任間もなく訪れたACLプレーオフに敗れれると、ルヴァンカップ、Jリーグの開幕戦でも敗北。ザーゴ体制での勝利の味を知ることが出来ないまま、新型ウイルスの流行によってJリーグは中断することになった。

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中断が明け、しばらくは不安定な戦いが続いたが、ようやく7連勝。やっと勝てるチームになり、優勝の不可能ではないと思った直後、連敗。大分戦、G大阪戦とも、決定機を作り出しながらゴールを奪うことが出来ずに先制点を奪われると、より攻勢を強めたところでカウンターから失点を喫して敗れた。そして、そのG大阪戦の一週間後に行われた横浜FC戦でも開始直後にセットプレーから先制点を許すと、13分にも失点。開始早々に2点のビハインドを負いカシマサッカースタジアムは静まり返る。

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21分、右サイドからのクロスボールに鈴木優磨が飛び込み、鹿島アントラーズが1点を返す。改めてリプレイを確認すると鈴木優磨はボールにまったく触れておらず、公式記録は水原三星の選手によるオウンゴールとなったが、鈴木優磨が飛び込まなければ当然ゴールは生まれていなかった。エースのゴールにより、スタジアムの雰囲気が変わる。2つのアウェイゴールを献上してしまったことは最悪だが、今日の試合で勝利を収めることが出来れば、アウェイでは引き分けでもいい。アウェイゴールなんて関係なくなる。まずは1点を返した。勝つぞ、とカシマにチャントが響き渡る。

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チャントは歌えないが、サポーターが入場可能になり、拍手でクラブを鼓舞することができ、しばらくすると手拍子も許可されるようになった。サポーターの入場が解禁となった横浜F・マリノス戦では上田綺世の2得点などでシーズン初勝利を挙げた。FC東京戦では遠藤康が遠藤康に相応しいパフォーマンスを披露し、鳥栖戦では新加入選手やルーキーが躍動。神戸戦では試合終了間際に荒木遼太郎がJリーグ初得点を記録した。しかし、勝ち切ることは出来なかった。FC東京戦でも多くの決定機を作りながらも同点に終わっている。土壇場で同点に追いついたからといって、引き分けに終わって喜んでいいクラブではない。どれだけ最悪な試合展開でも、勝たなくてはいけない。どれだけ最悪なスタートを切っても、タイトルを獲得しなくてはいけない。なにか一つ、きっかけがあれば。

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57分、右サイドからの折り返しをエヴェラウドが流し込み、鹿島アントラーズが1点を返す。エースのゴールにより、スタジアムの雰囲気が変わる。しかし、同点ゴールが遠い。試合は間もなくアディショナルタイムに突入する。88分、コーナーキックを獲得。途中出場の永木亮太がファーサイドに緩やかなボールを蹴り込み、エヴェラウドが頭に当てたボールがスクランブルを起こし、ゴールに向かって飛んでいく。そのボールに向向かって荒木遼太郎が飛び込み、同点に追いついた。公式記録はオウンゴール。勝つぞ、とカシマにより大きな拍手の音が響き渡る。

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同点に追いついた。開始6分で2失点を喫したことを考えれば、このまま試合を終えることが出来れば上出来なのかもしれないが、応援しているクラブは鹿島だ。アディショナルタイムは3分。まだ勝てる。フリーキックを獲得。ゴールまで距離があるが、これまでセットプレーのキッカーを務めていなかったセルジーニョがボールをセットし、ゴール前にインスイングのボールを送り込む。混戦。こぼれ球。内田篤人が反応し、シュートを放つ。相手に当たる。再び内田篤人の足元にボールが返ってくる。2度目のシュートは相手選手に当たりながらもゴールに吸い込まれ、ヒーローとなった右サイドバックの上に鹿島の選手たちが次々と覆い被さっていく。

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内田篤人の右足からゴール前に送り込まれたロングボールから同点ゴールが生まれ、試合が終わる。この試合を最後に内田篤人が現役を引退、さらに開幕からレギュラーポジションを守ってきた広瀬陸斗が負傷離脱することになった。代役の選択肢は伊東幸敏か永木亮太か小泉慶か山本脩斗などだろう。最初にチャンスが与えられたのは小泉慶だった。そして、そのチャンスを見事に掴んだ。アウェイでのFC東京戦で勝利に貢献すると、同試合から7試合連続でのスタメン出場。小泉慶はその7試合でとんでもないスプリント回数を記録し、鹿島は21ポイントを稼いだ。どれだけ最悪のスタートを切っても、目の前の試合を勝ち続けなくてはいけない。

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最悪なスタートを切った試合もアディショナルタイムに突入。残された時間は6分であることが伝えられる。その直後、コーナーキックを獲得。つい先ほどの同点ゴールと同じく、永木亮太がボールをセットし、ファーサイドに緩やかなボールを送り込んだ。混戦。こぼれ球。荒木遼太郎が拾うと、相手を背負いながらゴール前にグラウンダーのクロスを送る。そのボールに反応した小泉慶の右足から放たれたシュートがゴールに吸い込まれ、ヒーローとなった鹿島の右サイドバックの上に鹿島の選手たちが次々と覆い被さっていく。「あいつ、やるな」なんて声がスタンドから聞こえた気がした。