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ターンオーバー

「生物学におけるターンオーバー、もしくは代謝回転とは、生物を構成している細胞や組織が生体分子を合成し、一方で分解していくことで、新旧の分子が入れ替わりつつバランスを保つ動的平衡状態のこと。また、その結果として古い細胞や組織自体が新しく入れ替わること。生物種や細胞・組織の種類、分子種によって、ターンオーバー速度には大きな差異がある」『鹿島はーで二軍しか出てなかったのに負けるなんて』『ーで出場した選手たちのことをBチームじゃなくて二軍って言っちゃうから弱いんだよ』

ACL決勝を3日後に控えたセレッソ大阪とのJ1リーグ、鹿島アントラーズは大胆なターンオーバーを決行。センターバックが本職の町田浩樹が左サイドバック、左サイドバックが本職の小田逸稀が右サイドバックに入り、前線にはJリーグ初スタメンの久保田和音や田中稔也、山口一真などフレッシュなメンバーが並んだ。

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試合は案の定、C大阪のペースで始まる。それでも、失点する気配は感じられなかった。その要因はセンターラインに経験がある選手が多かったことが大きく影響しているが、左サイドバックの町田が自由なポジショニングで攻撃に関与していたことも関係があったかも知れない。右サイドの小田逸稀が守備面で苦戦を強いられた一方、町田のサイドは安定していた。そのうえ、積極的に攻撃に参加すれば、まったくデータがない「左サイドバックの町田」は相手に混乱を与えたはずだ。結果的に得点には絡むことが出来なかったが、鹿島サイドバック名物「なんでお前がそこにいるんだ感」を存分に発揮し、気が付けば試合は鹿島のペースになっていた。

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そして、右サイドも徐々に活性化していく。その主役は田中稔也だ。試合序盤は攻め込まれる時間が長く、持ち味の縦への推進力という部分が出なかった。今後、スーパーサブやレギュラーの座を射止めるには、苦しい時間でも自身の武器を活かす工夫が必要だが、チーム全体が乗っている時の田中稔也は観てて最もワクワクできる選手の一人であった。得意のドリブルを仕掛けつつ、複数人が連動した崩しは本山雅志や野沢拓也がいたときのような躍動感があり、トリッキーなパスからシュートチャンスを演出もした。残念ながらゴールやアシストといった結果を残すことは出来なかったが、J2リーグの舞台で躍動を続ける同期、平戸太貴や垣田裕暉のように、自身も鹿島で成長を遂げていることがカシマで証明してみせた。

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流れを掴みながらも先制点が奪えないまま前半の45分を終えた鹿島だが、後半開始早々にコーナーキックを獲得すると、ニアサイドに飛び込んだ小田逸稀が先制点をゲット。試合序盤は対面した相手選手の対応に苦戦したが、落ち着きを取り戻し、安定した守備を披露していた右サイドバックが得点まで決めてみせた。同期の安部裕葵とはいつの間にか大きな差が開いていた。かたや鹿島のレギュラーに定着し、ついでに世代別日本代表の10番を背負う一方、小田はなかなか出場機会を得ることが出来ず、怪我人続出でチャンスが回ってきた川崎戦でも失点に直結するミスを露呈した。それでも、再び巡ってきたチャンスで大きな結果を残した。東福岡高校の一員として出場した全国高校サッカー選手権で小田逸稀のヘディングをみた対戦相手は試合後、「小田クンやばい」と漏らした。どうせこの言葉も4年後か8年後、時代遅れの流行語大賞にでもなっているはずだ。

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ひとつのチャンスを決めた小田逸稀に対し、山口一真は10本のシュートを放ちながらも無得点に終わった。ビッグチャンスは二度あった。田中稔也のシュートのこぼれ球に反応したシーンと、先制後にカウンターからドリブルで独走して相手のキーパーと1対1を迎えたシーンだ。しかし、いずれもゴールネットを揺らすことが出来ず、プロ初得点はお預けとなった。追加点を奪えなかった鹿島は最小得点差のまま後半アディショナルに突入するが、最後まで集中力が途切れることなく、1-0で勝利。山口一真は残念な結果に終わったかもしれないが、クラブは勝ち点3を獲得した。ならば、山口も次の試合でゴールを決めればいいだけだ。次節はアウェイでの柏レイソル戦、ACL決勝の2試合の間に行われる。今日と同じく若いチーム構成で臨むことが予想されるが、その鹿島を勝利に導くシュートを叩き込めば、勝ち試合でのシュート10本外しはチャラになる。

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セレッソ大阪戦、その若いチームで一層の輝きを放ったのが久保田和音だ。2015年に鹿島でプロのキャリアをスタートさせるも、日の目を浴びることがないまま、4年目のシーズンを迎えていた。柴崎岳が退団した際には「ボールを捌くことが出来るボランチ」として期待していたが、2017年も出場は天皇杯での1試合のみ。そして今年も、元日の誕生日はクラブのSNSに取り上げられるも、ピッチに立つ久保田和音の姿を観ることが出来ない。香港での7人制大会ではキャプテンとしてプレーしたが、カシマに立つ姿を観ることが出来ない。今年もこのまま、出場機会がないままシーズンが終了するかと思っていた。

しかし、クラブがアジアチャンピオンズリーグで決勝進出を果たしたことで、久保田和音にも大きな転機が訪れる。ACL決勝1stレグの3日前、セレッソ大阪戦でスタメン出場。理想は小笠原満男や柴崎岳からポジションを勝ち取ってJリーグデビューを果たすことだったかも知れないが、形はどうあれ念願のJリーグデビューだ。そして、そのパフォーマンスは鹿島アントラーズのスターティングメンバーに相応しいものだった。得点に絡むことはなかったが、攻撃の舵を取り続けて勝利に貢献。ACL決勝進出によって生まれた過密日程の影響でチャンスを掴んだ久保田が、ACL決勝を控える選手たちに勝利のバトンを届けた。

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若手選手が躍動するなか、小笠原満男もフル出場を果たした。2015年のヤマザキナビスコカップでMVPを受賞してから3年が経ち、クラブでの立場は大きく変わった。ベンチでの時間が多くなるどころか、今季はベンチメンバーからも外れることが多い。試合に出ても、以前の小笠原満男を知っていれば知ってるだけ、ぶつけようがない悔しい気持ちに襲われるだけだった。

しかし、2018年10月31日、ガンバ大阪を下してタイトルを獲得した3年前のハロウィンと同じように圧巻のパフォーマンスを披露。3年前、優勝経験が少ない選手が多い中でプレーでクラブを鼓舞したように、今回も出場機会が少ない選手が多い中でクラブを勝利に導くプレーをみせた。

カップ戦でもなく、リーグの消化試合でもない状況で小笠原満男と同じピッチに立てたことは若い選手たちにとって大きな財産となるはずだ。もう出番がないかと思われていた新しい細胞が新しい組織に勝ち方のレシピを押し付けた。サッカー界におけターンオーバーの意味は「重要な試合を控えているから主力選手の休ませる」。しかし、主力を休ませても負けたら意味がない。勝ってこそ組織は大きく進化していく。