Momosaka

世界一に迫った4522日前

国立競技場の周辺にはバルセロナのユニフォームを着用したサポーターで溢れている。Jリーグの試合では白い目が向けられる<彼ら>だが、今日に限っては胸を張ってバルセロナのユニフォームを着ることが出来る。2004年、夏、スペインの名門クラブであるバルセロナが来日。そして今日、私が愛する鹿島アントラーズと対戦する。

周りを見渡すと、鹿島サポーターよりバルセロナのユニフォームを着ているサッカーファンの方が多い。舞台は日本だが、鹿島アントラーズのユニフォームを着ている私にとってアウェイの雰囲気すら感じられる。さらに、バルセロナはプジョルやロナウジーニョといったクラブの象徴的選手に加え、ジュリ、ラーション、マルケスなど世界中のサッカーファンが知っているような名選手が来日しているのに対し、鹿島はジーコが指揮を執る日本代表チームに多くの選手が招集されており、ベストメンバーを組むことが出来ずにバルセロナに挑むことになる。

それでも、鹿島アントラーズは日本で最もタイトルを獲得しているクラブであり、2000年には前人未到の三冠制覇。翌年もリーグチャンピオンに輝き、2002年はカップタイトルを獲得した。昨年こそ無冠に終わり、イタリアで開催されたローマとの親善試合でも大敗を喫したが、舞台が慣れ親しんだ国立競技場なら、世界のビッグクラブ相手にも勝てるかもしれない、と思い込んでいた。

しかし、キックオフから30分で3失点。代表チームに招集されている小笠原満男や中田浩二、本山雅志、鈴木隆行が不在とはいえ、手も足も出ない。その後、失点のペースは減るも、77分に4失点目を喫する。さらに、試合終盤には難なくゴール前に侵入してきたロナウジーニョが途中出場の若手選手にプレゼントパスを出し、未だトップチームで出場したことがないメッシーという若手にもゴールを許した。0-5。<彼ら>の心を動かすことが出来ないまま、タイムアップの笛が鳴り響く。

ただの親善試合。相手は世界最高クラスのビッグクラブ。鹿島サポーターでさえ、勝てると思っていた人は少なかっただろうし、勝つことなんて考えることもなくバルセロナと試合が出来るだけで嬉しかった人もいるだろう。

そもそも舞台が違う。Jリーグで圧倒的な存在になっても、欧州や南米のクラブとは真剣勝負できる場すらない。2000年に新設されたクラブワールドカップは第1回大会を最後に4年間も開催されていないし、欧州のクラブでプレーしている日本人選手だって数人程度。日本でタイトルを獲り続けることが出来れば、世界のビッグクラブに敵わなくてもいいじゃないか。

なんて声も聞こえてくるが、悔しくて仕方がない。たかが親善試合でもバルセロナを倒し、俺たちが愛している鹿島アントラーズというクラブは凄いだろ、と世界中に自慢したかった。

ウォーミングアップエリアで汗を流していた鹿島アントラーズの34番がユニフォーム姿になり、日産スタジアムに駆け付けたサッカーファンから大きな歓声が沸き上がる。準決勝でクリスティアーノ・ロナウドのゴールセレブレーションを披露したことや、CWCがクラブチームの世界一を決める大会であり、ACLをその予選大会のように扱うテレビ局がそのパフォーマンスを大きく取り扱ったことにより国内での知名度が高くなっていたストライカーがピッチに足を踏み入れ、2016年のクラブワールドカップ決勝は最終局面に突入する。

2016年のJリーグ王者としてクラブワールドカップに出場した鹿島アントラーズは初戦からアマチュアクラブ相手に苦戦を強いられるも、勝ち上がりを決めると続くアフリカ王者も撃破。多くのサッカーファンにとって、ここまでの展開は想定内だったはずだ。しかし、次の南米王者には勝てるはずがない、というより決勝戦のカードは欧州×南米ではなくてはならない、と誰もが思い込んでいた。

しかし、タイトルが近づき、しっかりとした審判がいる。この条件で鹿島が負けるはずがない。FIFA主催大会初のVARで獲得したPKを土居聖真が叩き込むと、後半終盤に遠藤康が追加点を決め、その直後、ゴール前に走り込んだ鈴木優磨が右サイドからのクロスをワンタッチで流し込んで、飛ぶ。スペインのメディアは試合後、早速「クリスティアーノ・ロナウドのようなゴールセレブレーションを披露した日本人」を紹介した。

「小学生時代から鹿島アントラーズのアカデミーで成長し、2015年からトップチームに加入。1年目から出場機会を掴むと、カップタイトルの獲得に貢献した。そして今季、日本に新たに誕生したスタジアムで最初のゴールを奪うと、大切な試合で結果を残し続けて鹿島アントラーズをリーグ優勝に導いた。憧れの選手はクリスティアーノ・ロナウドだ。クラブワールドカップのファイナルという大舞台で同じピッチに立つことになるだろう」

クリスティアーノ・ロナウドがいるピッチに鈴木優磨が投入される。現在のスコアは2-2。同点に追いつかれた後、防戦一方だった鹿島だが、試合終盤、攻撃のギアを上がった。金崎夢生が執拗に相手の背後を狙い、ファブリシオが強烈なシュートを放ち、西大伍が変幻自在のタッチで日本中を魅了する。試合終了直前、左サイドからのクロスがファーサイドまで流れ、遠藤康が右足でのシュートを外したところで後半終了を告げる笛が鳴り響き、広島県の高校の寮ではサッカー部に所属している1人の生徒が「鹿島スゲーな。お前ここに入るのか」とチームメイトに向かって声をかける。


半年前まで広島にある高校のサッカー部でプレーしており、全国的に有名な選手ではなかった安部裕葵が出場直後、強烈なシュートを放つ。昨年のJリーグと天皇杯を制し、クラブワールドカップでもレアル・マドリード相手に延長戦までもつれこむ試合を演じた鹿島アントラーズだが、今日の試合ではセビージャ相手に苦戦を強いられている。しかし、ルーキーの登場で試合の流れが変わった。

キャンプ時から「本山雅志を彷彿させる」という評価を受けていた安部裕葵は4月1日のリーグ戦にて、クラブ史上3番目の早さでデビューを果たすと、出場すぐ土居聖真の決定機を演出するなど存在感を発揮。途中出場で誰よりもイキイキとプレーする姿はまさに本山雅志であり、いつか10番を背負う選手になるのではないか、とまで予感させるパフォーマンスだった。

しかし、初めてスターティングメンバーを名を連ねたカシマでのジュビロ磐田戦では前半45分間のみで交代。鹿島も0-3で敗れた。そこからベンチにも入れない日々が続く。そんな状況で迎えたセビージャとの一戦。親善試合のためベンチにも14人の選手が名を連ね、安部裕葵もメンバー入り。そして、押し込まれている状況で土居聖真と鈴木優磨と共に62分からピッチに足を踏み入れ、出場直後、強烈なシュートを放った。流れが変わり、その10分後、試合が動く。

伊東幸敏と目が合い、パスを要求する。エンゾンジがそのパスを狙ってきたが、長い脚はわずかボールに届かず、ファーストタッチでエンゾンジを置き去りにする。そのコントロールは少し大きくなったようにも思えたが、突っ込んできたラングレも剥がす。すぐさまコルシアにカバーに入られるが、ダブルタッチでかわし、キーパーのソリアを引きつける。そこでシュートの選択肢もあったが、ゴール前でフリーになったストライカーがパスを要求している。そこにパスを出す。無人のゴールにボールが転がり込み、鈴木優磨が飛ぶ。

安部裕葵の個人技で先制点を奪った鹿島は終了間際にも鈴木優磨がゴールを決め、2-0で勝利を収めた。昨年、クラブワールドカップで来日したレアル・マドリードと今回のセビージャでは、モチベーションもコンディションもメンバーも大きく違う。それでも、スペインの強豪に勝てたことは大きな自信になるはずだ。

少なくてもサポーターには自信になった。なにより、Jリーグが「スゴイやつらがやってくる」とプロモーションし、様々なメディアで配信された試合で日本にもスゴイ若手がいることが証明できた。ただが親善試合。それでも、その試合を勝つことで成長が出来る。スタジアムに駆け付けたサポーターたちが肩を組み、オブラディオブラダを歌い上げる。その30分後、多くの鹿島サポーターが東京に帰る中、東京のスタジアムからも歓声が鳴り響いた。

1点をビハインドを負った東京ヴェルディだが、失点から4分後の86分、左サイド高い位置で安西幸輝がボールを持つ。すぐに馬場賢治が寄せてくるが細かいタッチで相手の逆を取ると、カバーに入った武田有祐のタイミングを外してクロスボールを供給。東京ヴェルディが再び同点に追いつき、味の素スタジアムに駆け付けた東京ヴェルディのサポーターが沸き上がる。しかし、試合は引き分けのまま終了した。

同年、東京ヴェルディは昇格プレーオフに出場したが、J1昇格を果たすことは出来なかった。2014年に東京Vでプロのキャリアをスタートさせた安西幸輝は東京ヴェルディに在籍した4年間で152試合に出場し、2017年シーズンを最後に「これからいち選手としてより高みを目指して頑張ります」と鹿島アントラーズへの移籍を決断する。サイドバックとサイドハーフ、どちらのサイドでもプレーできる安西幸輝はすぐに鹿島で欠かせない存在となった。そして、アジアチャンピオンズリーグではクラブの悲願だったタイトル獲得に貢献。決勝戦では1stレグ、2ndレグともに途中出場を果たし、試合後には「このクラブに来て本当によかった」と口にした。

そして、クラブワールドカップ、初戦のグアダラハラ戦では80分からピッチに立つと、その直後に安部裕葵とのコンビネーションで試合を決定を付ける追加点を演出する。この勝利で鹿島アントラーズは準決勝進出。対戦相手は2016年のクラブワールドカップで敗北を喫したレアル・マドリードだ。怪我でクラブワールドカップに帯同できなかった鈴木優磨はJリーグアウォーズに参加し、「レアルに勝ってくれるはず」と発言する。会場からは小さな笑い声が漏れた。

鈴木優磨のヘディングシュートがクロスバーを叩き、日産スタジアムでレアル・マドリードのユニフォームを着て試合を観戦している若い男が思わず「惜しい」と手を叩く。その青年はすぐに我に返り、さきほどの行動を誤魔化すように隣に座っている彼女と思わしき人物に話しかけるが、スタジアムの雰囲気は鹿島アントラーズを応援するムードに傾いている。

しかし、日本ではどれだけ相手に押し込まれようが最後に勝つのは鹿島アントラーズであるように、世界では最後に勝つのはレアル・マドリードだった。試合終盤にはビッグチャンスを作り出し、延長戦までもつれ込んだ末の完敗。2-4。試合終了の笛が鳴り響き、ピッチでは鈴木優磨がクリスティアーノ・ロナウドに向かってユニフォームの交換を申し出ている。試合終わったあとにそんなことできるなら、と文句を言いかけるが、過密日程を戦い抜き、ワールドカップの決勝戦で対戦相手がレアル・マドリードという大舞台までサポーターを導いてくれた選手を罵倒する言葉が思い浮かばない。

鈴木優磨は翌年から9番を背負い、得点を量産する。金崎夢生が退団した2018年のシーズン後半はエースとして攻撃を牽引し、クラブ悲願であったアジアチャンピオンズリーグのタイトル獲得に貢献し、自身も大会MVPに選ばれた。しかし、天皇杯は準決勝で破れ、その試合で負傷した鈴木優磨は2019年、1度も試合に出ることがないまま、海外挑戦に挑むことを決意した。

鹿島ユース出身の選手が日本を離れ、海外でプレーする。これまでにも野沢拓也がオーストラリアでプレーしたこともあるし、松浦航洋は現在でもスペインの下部リーグに挑戦しているが、鈴木優磨はJリーグで結果を残し、将来的なステップアップを果たすために移籍を決断した初めての例となる。

同時期に移籍を決断した安西幸輝は東京ヴェルディで育ち、鹿島で海外に見つかっただけ。安部裕葵なんて久保建英を取り逃したバルセロナが意地で獲得しただけ、なんて言われている。しかし、鈴木優磨は鹿島のアカデミーで育ち、鹿島でプロのキャリアをスタートさせ、鹿島に4つのタイトルをもたらし、海外へ旅立つ。クラブのチャントが個人のチャントに受け継がれた。その理由は鈴木優磨が鹿島の象徴だからだ。鈴木優磨が海外で活躍すればするほど、鹿島アントラーズの勝ちだ。


2018年、2度目のレアル・マドリードへの挑戦も完敗に終わった。1-3。得点差は前回の対戦の同じだが、前回の敗戦よりも重くのしかかるものだった。そして3位決定戦でも南米王者相手に0-4の完敗。鈴木優磨や三竿健斗といった中心選手を欠いての大会だったが、アジアチャンピオンとして参戦したクラブワールドカップで大きな屈辱を味わった。2018年からクラブに加入した安西幸輝は大会を振り返り、「鹿島に来て、もちろん、伸びたと思っているけど、最後にこれだけ大きな衝撃があるとね。まだ上には上があったって気づけた」と語った。

翌年、安西幸輝は左サイドバックでレギュラーに定着。新加入の白崎凌兵とのコンビネーションは抜群で、サイドバックながら開幕から10試合で3得点を記録するなどチームに欠かせない存在となった。鹿島に欠かせない存在となることは、日本代表に選出されるということ。そして、海外のクラブから目をつけられる。

ポルティモネンセからオファーが届き、安西幸輝は加入からわずか1年半で移籍を決断した。ステップアップするために鹿島に移籍してきたのだから海外への挑戦は仕方ないとも思えるが、たった1年半でいなくなってしまうのかと悲しい気持ちもあるし、よりよってポルティモネンセかよ、という怒りに似た感情もある。正直、海外クラブからのオファーに対し、「安西君のようにそうやって手を挙げられることは、とても良いことだと思うよ」とは言うことが出来ない。

「安西幸輝は東京ヴェルディで育ち、鹿島で海外に見つかっただけ」。鹿島にいたのは1年半だけだし、一緒に獲得したタイトルだってアジアチャンピオンズリーグのみ。それでも、クラブがSNSに力を入れている時代に加入した安西幸輝は加入すぐ宮崎キャンプでのスポンサーとのエール交換やキックオフパーティで強烈なインパクトを残すと、開幕戦では1試合で3つのポジションをこなすユーティリティーさを披露。自身のInstagramでもサポーターを楽しませ、ホームでの柏レイソル戦では月間ベストゴールにも選出されたソロカウンターでカシマに歓喜を呼び込み、気が付ければ安西のことを好きになっちゃっていた。

鹿島では西大伍が長年背負った22番を受け継ぎ、いつか2番も付けたいと言ってくれた。現在、その2番を背負っている内田篤人を認めさせるためには、内田篤人が体感した欧州チャンピオンズリーグベスト4を壁を越えなくてはならない。まずは海外の舞台でも誇張しすぎた22番を披露して、欧州チャンピオンズリーグで優勝が狙えるクラブにステップアップをしてほしい。安西幸輝なら、なんの誇張でもなく、それが出来ると信じている。


ジーコ、レオナルド、ビスマルク、本山雅志、柴崎岳、金崎夢生。正確にいえば「鹿島の10番」を背負った選手はもっとたくさんいるが、「鹿島の10番」といわれて名前が挙がるのは上記の6人だろう。2019年1月、そのメンバーに20歳の安部裕葵が加わった。

2018年、安部裕葵はJリーグの最優秀新人賞を受賞。成績は22試合出場で2得点。当然、超少ない。他のクラブのサポーターからは不満の声が出た。しかし、鹿島の試合を観ている人ならば、当然の受賞だった。ポジションを考えれば得点数は少ないが、見えているのが違う。45分以上出場した試合の成績は14試合で1敗のみ。結果的に優勝を果たしたACLの決勝戦1stレグでも、意図的なファールで相手の決定機を阻止するなど、クラブを勝たせる選手、まさに鹿島の選手になっていた。

そんな選手にバルセロナのセカンドチームからオファーが届いた。報道では、バルセロナは他の日本人選手にも声をかけており、久保建英を逃したバルセロナはクラブの面子を保つため、もしくは日本でのマーケティング面を考え、若くて実力がある“日本人”なら誰でも良かった、とされている。

何人かの選手がバルセロナからオファーを断る中、その候補に挙がっていていた安部裕葵が移籍を決断した。鹿島の10番を背負ってたった半年で出ていくなんて、という声も当然あるが、他の選手が「バルセロナBからトップチームに上がれる気がしない」と違う海外クラブを選ぶ中で、チャンスがあるなら、バルセロナに行くのは安部裕葵らしい。そして、鹿島の10番に相応しい、と思っている。

現在のバルセロナにとって安部裕葵は、宿敵レアル・マドリードに取られた久保建英の代わりでしかないかも知れない。そもそも、FC東京でプレーしていた選手の代わりが鹿島の10番って、なんて文句も言いたいが、2019年のJ1リーグで対戦した久保建英は間違いなく素晴らしい選手であり、鹿島の守備陣は混乱に貶められた。

しかし、鹿島サポーターならば安部裕葵の凄さも知っている。加入時の期待値は決して高くなかったが、怪我人が続出しても強度が変わらない紅白戦では切れ味鋭いドリブルで相手チームを切り裂き、公式戦での出場機会を掴むと、試合では勝利に徹するプレーを披露し、わずか半年だったとはいえ、鹿島の10番を背負うまでの選手に成長した。たった半年でバルセロナに獲られるハメになるとは思っていなかったが、スペインの地で、柴崎岳と共に鹿島の10番に相応しい活躍を期待している。

国立競技場の周辺にはマンチェスター・ユナイテッドのユニフォームを着用したサポーターで溢れている。Jリーグの試合では白い目が向けられる<彼ら>だが、今日に限っては胸を張ってマンチェスター・ユナイテッドのユニフォームを着ることが出来る。2005年、夏、イングランドの名門クラブであるマンチェスター・ユナイテッドが来日。そして今日、私が愛する鹿島アントラーズと対戦する

周りを見渡すと、鹿島サポーターよりマンチェスター・ユナイテッドのユニフォームを着ているサッカーファンの方が多い。舞台は日本だが、鹿島アントラーズのユニフォームを着ている私にとってアウェイの雰囲気すら感じられる。さらに、マンチェスター・ユナイテッドはギグスやファーディナンドといったクラブの象徴的な選手に加え、昨シーズンに絶大なインパクトを与えたルーニーや、新加入ながらベッカムを背負っていた7番を引き継ぐクリスティアーノ・ロナウドといったベストメンバーが来日した。

しかし、鹿島アントラーズも小笠原満男や本山雅志などが、マンチェスター・ユナイテッド戦が終わってから日本代表チームに合流することが認められ、ベストメンバーで挑むことが出来る。昨季こそバルセロナに完敗に終わったが、中心選手がいてくれれば、シーズン開幕から独走状態が続いている今季なら、世界のビッグクラブ相手にも勝てるかもしれない、と思い込む。

そして、キックオフから5分で本山雅志が強烈なシュートを叩き込んで先制点。その後、一時は同点に追いつかれるも、24分、再び本山雅志が小笠原満男から送られた絶妙なパスに抜け出し、左足でのシュートをネットに突き刺した。リードを奪った鹿島は後半にも多くの決定機を作る。追加点を奪うことは出来なかったが、同点ゴールを許さない。2-1。タイムアップの笛が鳴り響き、ゴール裏に駆け付けた鹿島サポーターの歓喜が爆発する。メインスタンドやバックスタンドに座る<彼ら>からも拍手が送られている気がする。

マンチェスター・ユナイテッドはシーズン開幕前だし、全然本気ではなかった。なんて声が聞こえてくるが、嬉しくて仕方がない。俺たちが愛している鹿島アントラーズというクラブは凄いだろ、と世界中に自慢することが出来る。

そもそも戦いの舞台が違う、なんて言っていられない時代にもなった。2004年、冬、FIFAがクラブワールドカップを復活させることを正式に発表した。これでJリーグのクラブもアジアチャンピオンズリーグを勝ち抜けば、世界のビッグクラブと真剣勝負が出来る舞台が誕生した。

今日の試合は、ただの親善試合。マンチェスター・ユナイテッドに勝てたからといって勝ち点3がもらえるわけでもない。シーズン後半は失速、再び10冠制覇を逃す可能性もある。この試合で絶大なインパクトを残した小笠原満男や本山雅志などが海外のクラブに引き抜かれる可能性だってある。しかし、この勝利は間違いなく、クラブの輝かしい未来に繋がるものだった。

主力選手がどれだけ海外移籍に挑戦しても、マンチェスター・ユナイテッドを下し、多くの選手を海外クラブに送り込んだ鹿島アントラーズというクラブは、サッカーを始めたばかりの小学生たちの憧れにもなるはずだ。その少年たちが近い将来、鹿島のエンブレムを背負い、鹿島の勝利を導いてくれるだろう。それは鹿島アントラーズのアカデミーに所属する少年かもしれない。Jリーグのライバルであるクラブのアカデミーでプレーする少年するかもしれない。兄の影響でサッカーを始めたばかりの少年かも知れない。

そんな少年たちが加入する鹿島アントラーズは10冠制覇を果たした後もリーグ王者に輝き続け、カップタイトルも毎年のように獲得するクラブで居続けるだろう。ほかのクラブが続々と下部リーグに降格するなか、ずっとJ1にいるのが鹿島だけになるかもしれない。鹿島を旅立った選手が欧州のビッグクラブでもサポーターから愛される存在になるかもしれない。

鹿島アントラーズもアジアのチャンピオンズリーグを制し、クラブワールドカップに出場する日がいつか来るはずだ。その対戦相手はバルセロナで、もしかしたら昨年の対戦でゴールを決められたメッシーという若者が主力選手となっているかもしれない。はたまた、クリスティアーノ・ロナウドがバロンドールを受賞するような選手にまで成長したマンチェスター・ユナイテッドかも知れない。そんな相手から、今日と同じように本山雅志がゴールを奪い、世界中に「鹿島の10番」の凄さが知れ渡るかもしれない。

そんな試合を演じた鹿島アントラーズというクラブは、プロを目指す高校生たちの憧れにもなるはずだ。その少年たちが近い将来、鹿島のエンブレムを背負い、鹿島の勝利を導いてくれるだろう。それは鹿島アントラーズのアカデミーに所属するキーパーかもしれない。鹿島アカデミー出身ながらユースに昇格できず、福島県の高校のサッカー部に加入することになったストライカーかもしれない。自身の成長と全国制覇を目指し、大阪から静岡の名門高校に入学したドリブラーからもしれない。幼い頃からずっと赤いユニフォームを身に纏い、本山雅志と同じく東福岡高校で10番を背負うことになるアタッカーかもしれない。